「管理費の予算が年々減って困ってるんですよ。」


公園管理を担っている財団や自治体の方々とお話しすると、よくこういう苦言 を耳にします。

人口の高齢化に伴い、公共事業が縮小される傾向にありますが、それと同じくして既存の公共施設の管理費がどんどん縮小されているというのです。

真っ先にその ターゲットとなるのが、公園!

民間に管理を委託する「指定者管理者制度」がひろく広まった背景にも、「管理費の削減」の目的があります。

中には、管理費削減に事足りず、新たな公共施設を建設するために、公園を半分削って建設する例もあります。


「ちょっと!公園は空き地じゃねーんだぞぉ!」

と思わず叫びたくなるのですが、残念ながら公園に対する認識の低さを感じます。


ではフランスではどうか?

日本と同じく成熟社会に突入したフランスも、もれなく同じ傾向が見られます。

中には国の文化遺産に登録されていても維持管理費が捻出できず、庭園の質の保持に苦労している庭もあります。

公園にとって、まさに暗黒の時代に突入!


そのような共通認識が、フランスの公園関係者の中に芽生え始めている昨今、ものすごい勢いでこの現状と逆行している地方都市があります。

それが、


ナント市 。


ナント市は、パリから南西にTGV(新幹線)で2時間弱の距離にある、人口約30万人弱の地方都市です。

この地方都市に何が起こっているのか?

そのキーパーソンとなるのが、ナント市緑地部長さんのジャック・ソワニョンさん ↓

このジャックさん、一見普通のおじさんなのですが、実は、すごいんです!

 斬新なアイデアを次々と考案し、ナントの公園事情に革命を起こした「スーパーマン」ならぬ

「スーパー 庭師」さんなのです!



彼が部長に就任したのが、16年前。

それまで、ごく普通の地方都市だったナントを、どうにか公園と庭園で有名にした、と考えていました。

ただ、ナントは日本と同じく、第2時世界大戦で街のほとんどが空爆され、歴史的な建造物がほとんど残っていない街。

パリやリヨン、ヴェルサイユのように、歴史的な庭園で勝負できないのは目に見えて明らかでした。

「さて、どうしたものか。。。」byジャックさん


ある夜、息子にとある絵本を読み聞かせていました。


その絵本は、とある公園が舞台となっていて、ベンチが主人公。

公園の訪問者についてベンチが回想する 、というストーリーです。


訪問者は、人間だけではなりません。

お猿さんや


ラブラブモンスターや



ねずみたちや


ロボットなどなど


ありとあらゆる訪問者たちが、この公園に訪れます。

物語を読み聞かせているうちに、ジャックさんは閃きました。

「あ!その絵本を公園に作ろう!」


翌日、その絵本の作家クロッド・ポンチさんに連絡を取り、協力を依頼します。

ポンチさんは快く了承。

こうして、公園のプロと絵本のプロがタッグを組んだ翌年から、ナントにある市立植物園にはいろんな《訪問者》が出没するようになりました。


例えばこの子↓

(image @ ジャックさん)



巨大なヒヨコくん。

毎年春から秋にかけて、ナントの植物園に出没し始めます。

ある年は人目をはばからず大の字でお昼寝


(image @ https://www.ouest-france.fr/pays-de-la-loire/nantes-44000/claude-ponti-revient-en-juin-au-jardin-des-plantes-1833284 )




またある年はこのヒヨコくん用に作られた巨大 ベンチにもたれてうたた寝↓

( image @ ジャックさん)


園内のいたるところには、足跡がくっきり


(image @ https://www.bigcitylife.fr/jardin-des-plantes-nantes-poussin-claude-ponti-a-disparu/ )



ヒヨコくん以外にもいろいろいます。

暖かい時期だけ園内に出没するヒヨコくんに対して、園内にすみはじめる子も現れました。

この子↓

(image @ https://www.ouest-france.fr/pays-de-la-loire/nantes-44000/nantes-lours-qui-dort-de-claude-ponti-sexpose-en-russie-4281263 )



狸のようなクマのようなこの得体のしれない生き物は、一番日当たりのいい場所でいつもスヤスヤお昼寝をしています。

ヒヨコくんに負けず劣らず結構巨大。。。


( image @ ジャックさん)


この《訪問者》たちにはそれぞれ生い立ちがちゃんとあり、名前はもちろん「なぜ植物園にたどり着いたのか?」「どういう性格なのか?」といった情報が園内のパネルで紹介されています。

物語を書き下ろしたのは、もちろん絵本作家のポンチさん。

( image @ Claude Ponti ” Métamorphose ou création, l’avis des Plantes”, 2014)



( image @ Claude Ponti ” Métamorphose ou création, l’avis des Plantes”, 2014)


これはほんの一部で、園内にはまだまだたくさん 物語が 仕組まれています。

園内を歩くと、まるで絵本の中を歩いているような感覚になります。



この不思議な《訪問者》たちは、すべて、市の庭師さんたちの手で作られています。↓


(image @ https://www.presseocean.fr/actualite/nantes-le-dodo-du-jardin-des-plantes-en-tenue-dhiver-12-12-2014-141342)

(image @ https://www.presseocean.fr/actualite/nantes-le-dodo-du-jardin-des-plantes-en-tenue-dhiver-12-12-2014-141342)



瞬く間にこの《訪問者》たちはナントの人気者になりました。

とくにヒヨコくん!

地方記事などにも取り上げられ、

「ヒヨコ、再び出没!」

と、ヒヨコニュースが大々的に地域に広まりました。

ヒヨコブームに火がつき 、ヒヨコにちなんだイベントが市内のあちこちで開催され始めました。

ある年には、庭師さんの代わりに市民みんなで ヒヨコくんを作っちゃったり。。。↓

( image @ https://www.presseocean.fr/actualite/le-poussin-geant-de-claude-ponti-a-pris-son-envol-au-jardin-des-plantes-24-08-2016-202252 )

社会現象ならぬ、ちょっとした「地域現象」を巻き起す事に。



スーパー庭師こと緑化部長ジャックさんのすごいところは、ここで満足しないところ。

彼はすかさず入場者を数える機械を、植物園のすべての入り口に設置し、入園者の数のデータを集計しはじめました。

こちらがその機械。


遠くから見ると何かわからないくらい、ひっそりと設置されています。

植物園内の物語が有名になればなるほど、もちろん入園者数も増えます。

実は、ヒヨコ情報を地方新聞へ流し、掲載させたのは、 ジャックさん本人でした。

データが一通りたまると、ジャックさんはそれを持って、市長に掛け合い、公園の管理予算や庭師の人件費を増やすように交渉しました。

地域現象を巻き起こしている公園と、それを数字で示す 入園者数データ。

入園者数の増加を示したデータは、公園の価値の証言者として、市長に訴えました。

市長は、断る理由がありませんでした。

こうしてジャックさんは予算の増加に成功したのです。

当時《環境に優しい街づくり》をテーマにナントを再開発しようと考えていた市長の意向にもマッチしたもの功を奏しました。



今日、ナントはフランスで有数な公園の街となり、観光の名所の一つとなっています。

公園を《絵本》にするジャックさんのアイデア。

なかなか素敵だと、私は思っています。

なぜなら、みんな子供の頃、絵本を読んで育ったから。

大人もこどもも楽しめる 公園って、素敵ですね。




最後までご高覧いただきありがとうございました。