フランスの造園(ランドスケープ)は、今とても注目されています。

その理由は、3つ。



1 地球温暖化対策とオリンピック・パラリンピック開催

2018年の夏はフランスと日本では記録的な猛暑に見舞われ、
多数の死者が出ました。近年、世界各地で異常気象が頻発しており、
地球温暖化が原因といわれています。

地球温暖化問題への取り組みで、日本とフランスは、
ともに国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)開催国という共通点があります。

1997年、日本で開催された会議の中で「京都議定書」が採択され、
その議定書を踏襲して 2015年フランスでの会議で「パリ協定」が採択されました。

世界の159ヵ国(世界の温室効果ガス排出量の約86%を排出) が
地球温暖化への対策へ大きな一歩を踏み始めたのですが、そんな矢先大きな問題が生じます。

温暖化ガス世界第2位のアメリカが脱退表明です。
歩調が乱れる中、日本やフランスなどの先進国の動向に世界が注目しました。
技術力に勝る日本は、再生可能エネルギーを活用した低排出なエネルギーの推進と
エネルギー効率化に特化した対策を打ち出します。

目指すは、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減です。

一方フランスは、二酸化炭素廃棄車両の制限やグリーンインフラを用いた
都市の再整備という斬新な対策に乗り出しました。

首都パリでは、市内のディーゼル車 の2024年までの段階的使用禁止や、
ガソリンエンジン車の2030年までの禁止、レンタル電気自動車や電気スクーターの導入、レンタル自転車の増設などのCO2排出削減対策に加え、
2024年までに、2万本の緑化区画を新設するなどグリーンインフラを充実させた対策が打ち出され、《グリーン先進都市パリ》の実現へ舵がきられました。


これらの政策は2024年のパリ・オリンピック・パラリンピック開催年までの達成を見込んでおり、環境に配慮した持続可能なオリンピック・パラリンピックの実現に余念がありません。


最新技術を活用する日本とグリーンインフラを生かすフランス、
どちらも地球を守る大切なアプローチと言えますが、
日本もフランスのアプローチを取り入れる必要性があることが、
近年の異常気象で徐々に明確になりつつあります。


現在東京では2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて着々と整備が進んでいますが、大会期間中の暑さ対策が最大の課題の一つとなっています。


この対策の一つに街路樹など都市の緑地の増加があげられます。
グリーンインフラの概念は日本では近年広まりつつありますが、
その参考事例がアメリカやドイツといったアングロサクソンの国々の事例に偏っている傾向があります。


気候変動に対して、またオリンピック・パラリンピック開催に向けて同じ志を持つ国フランス、日本にとってはよきパートナーといえるのです。


2 成熟都市としての緑化対策

都市緑地の歴史的背景においても日本とフランスには共通点があります。
つまり、互いに《成熟都市》である、ということです。


日本の近代都市は19世紀から成長を続け、現代は完成した都市、
いわゆる《成熟都市》という新たな段階に入りました。
人口増加や都市拡大といった従来の課題に対応する計画ではなく、
人口減少や完成されたインフラの維持管理といった成熟した社会が抱える問題への対策が問われています。


これは都市の緑化に関しても同じ状況で、緑地を量的に建設することが優先されていた1920年代とは異なり、
すでに造られた緑地をいかに維持管理し、持続的な良質の緑を担保するか、が重要な問題となっています。


この都市緑地の課題への解決策のヒントを持っている国のひとつがフランスです。
フランスでは、19世紀中期の時点で、都市緑化に関する制度と理念の基盤が確立されていました。


当時すでに成熟都市であった首都パリは、ナポレオン3世とオスマン知事主導のもと、
実行されたパリ大改造計画によって、インフラが大規模に再整備されます。


同時に大規模な緑地整備が行われ、都市公園や森林公園、スクエア、
街路樹といった緑地が新たに整備され、首都の住環境が飛躍的に改善されました。


これらはフランスの独創性を生かして設計されており、花の都パリを象徴する憩いの場として、多くの住民や観光客に利用され続けています。


この緑地整備の重要な基盤となったのが、封建時代に培われた庭園とその文化です。
緑地を量的に新設するのではなく、既存の庭園と伝統的な庭園文化に則って良質の緑地を創造することで、成熟型都市の空間の質を備えた社会インフラとしての都市緑地を再編成したのです。


このフランスの社会的・文化的背景は、日本と共通点がいくつかみられます。
日本の近代都市計画の起源は明治時代と言われていますが、
開国以前の日本の街は、城を中心に入念に構想されていました。


また昔から脈々と続く豊かな庭園文化の影響で、街中には庭園が数多く存在しました。首都江戸には、大名や武士、商人などの庭園が数多く存在し、江戸は大変緑豊かな街でした。


江戸時代末期に日本を訪れたスコットランド出身植物学者ロバート・フォーチュンは、手記で江戸の緑豊かな様子に触れ、感動を綴っています。
これらの大名庭園のうち幾つかは一般市民に開放され、社会階級問わず庭園を親しむ文化がありました。

同時に社寺境内や景勝地といった公共地がいたるところにあり、今日の公園の役割を果たしていました。
明治時代以降、これらの伝統的な庭園や社寺境内、景勝地の一部が近代公園へと指定されていきました。

これらのことは つまり封建時代に維持された街の緑が近代都市東京の
都市緑地の一部を成し、社会インフラとして再編成されたこと意味し、
いわば、日本の独自性を反映する都市緑地空間と言うことができます。
この点では、フランスとよく似た境遇にあると言えます。

20世紀以降日本はアングロサクソン圏の国々に都市緑地のヒントを求める様になります。
特に終戦後はアメリカのランドスケープの影響を強く受けてきました。
ただ、「成熟都市」の観点から見ると、日本はフランスのランドスケープに学ぶヒントがたくさん隠されているといっても過言ではありません。



3 空間性の違い

これまで日仏間の共通点からフランスのランドスケープの面白さについて述べてきましたが、
相違点からもフランスは 新たなインスピレーションをもたらしてくれる国の一つです。

庭園文化の観点から見ると、日本とフランスはとても異なった文化を持った国です。
歴史的に見ると、フランスの伝統的庭園は幾何学式が主流で、
幾何学な模様で飾られた花壇や、左右対称の構成された刺繍花壇、
地平線まで続くパースペクティブ(遠近法)によって構成されていました。

これは枯山水や池泉回遊式といった日本の伝統的庭園様式と大きく異なります。
この違いについて、フランスの著名な地理学者・東洋学者オギュスタン・ベルクは、空間性の観点から説明しています。


すなわち、フランスの造園は 《線的》で《単一中心世(Uni-centralité)、
日本庭園の造園は《部分の集合》や《複合中心性(Multi-centralité)な空間的特徴があると説明しています。
このことはつまり、日仏の造園家たちは異なった方法で空間を認識しており、
庭園・公園の設計プロセスや、都市計画、国土整備の過程にも影響してくることを暗に意味しています。


この点について、これは現在研究テーマでもあるのですが、
この空間性の違いは、交流していく上で大変重要なキーポイントの一つであると思います。


なぜなら、新しい発見がたくさんあるし、新たな発想が生まれやすいからです。
フランスのランドスケープの面白さの一つと言えます。

このように日本とフランスの造園分野が交流することは、
さまざまな《豊かさ》を生むためのたくさんのヒントが隠されています。